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捜査は、勝ち負けではない。
“取り返し”の工程だ。
スクショのアイコン。短い指示。期限。確認。
それらは単体では罪にならない。——しかし積み重なると、構造になる。
柏木は会議室で、資料の束を机に置いた。
班長、相棒、分析担当が揃っている。
「“会社”は飾りです。中身は、役割の連結。紹介者は燃料。名義は容器。会場は舞台装置」
班長が言う。
「で、上はどこだ」
柏木は、紙の一点を指した。
「この指示の言葉遣い、説明会の講師と同じです。“安心の作り方”を知ってる人間の癖。それと——会場の手配記録。ここに同じ連絡先が出る」
相棒が頷く。
「繋がったな」
柏木は、短く息を吸った。
「繋がっただけです。——崩します」
その夜、動いた。静かに。派手にしない。
派手にすれば、被害者の心が“自分は騙された”と直視してしまう。
直視は救いではない。時に、破壊だ。
現場は、同じ雑居ビルだった。
机の上にはパンフレットの束。粗品の袋。名刺の箱。
安心の部品が、部屋の中に散らばっている。
男は言った。
「うちは、投資の“紹介”を……」
柏木は、淡々と返した。
「紹介の顔をして、責任を切り売りしてましたね」
男は笑ってみせた。
「被害者だって、得したかったんだ」
柏木は、その言葉を否定しなかった。
代わりに、別の言葉を置いた。
「得したかったんじゃない。安心したかったんです」
男の表情が、わずかに歪む。
欲望は責められても耐える。だが“安心”は、奪った側の正当化を崩す。
「あなたは、安心を商品にしました。——返品できない形で」
容疑者の目が、逃げ道を探す。
しかし逃げ道は、書類の中にしかない。そして書類は、こちらが先に押さえている。
逮捕は終わりではない。
取り調べ、裏取り、被害の掘り起こし、紹介者の救済。
“これから”が長い。
署に戻る車内。相棒が言った。
「お前、最後にあれ言う必要あったか」
「どれです?」
「安心したかったんです、って」
柏木は窓の外を見た。夜の街は、光が多いほど影が深い。
「必要です。——被害者が“恥”で潰れないために」
事件は落ちた。空は着地した。
しかし、地面に残る傷は消えない。
柏木聡美は、次の事件の資料を手に取った。
金は嘘をつかない。嘘をつくのは、いつも人間だ。