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柏木は、説明会の録音を反復した。言葉は、繰り返すと骨が見える。
“確実”。“限定”。“内々”。“選ばれた方だけ”。
それは欲望の言葉に見えて、実は恐怖の言葉だ。
「あなたは外されるかもしれない」——そう囁く。
捜査二課の会議室。
ホワイトボードには、矢印が増えていた。
会社→説明会→紹介者→被害者。単純な線は、現実では必ず曲がる。
相棒が、写真を机に置く。
「会場の受付、別件で顔が出た。以前は別の“セミナー”の受付もやってる」
「受付は会社じゃなくて、役割の人」
柏木は言った。役割。役割は流通する。
人は移動する。責任だけが残る。
彼女は、被害者の共通点を探した。
年齢も職業もバラバラ。ただひとつ、共通するものがある。
——“今の生活が不安”。
失業ではない。借金でもない。破綻でもない。
ただ、未来が薄い。薄い未来は、人を焦がす。
「安心は、金額じゃない」
柏木は呟いた。
「安心は、“言ってくれる人”で決まる」
だから紹介者が必要だ。
会社が信用を作るより、人間関係の信用を借りた方が早い。
借りた信用は、返さなくていい。燃やしてしまえばいい。
班長が資料をめくる。
「口座の動き、まだ薄いな。小口が散ってる。決め手に足りない」
柏木は頷いた。
小口は“様子見”だ。詐欺師側も、被害者側も。
しかし様子見が続くなら事件は大きくならない。——大きくする仕掛けが、必ず次に来る。
「次は、追加投資を促す段階です」
相棒が眉を上げる。
「根拠は?」
柏木は、説明会のパンフレットを指で叩いた。
「“第2フェーズ”って書いてある。投資話にフェーズなんて要らない。必要なのは納得だけ。フェーズを作るのは、次の行動を正当化するため」
そして、正当化の材料はいつも“安心”だ。
安心させて、追加させる。追加させて、引けなくさせる。
その夜。柏木の端末に、相棒からメッセージが来た。
「紹介者の一人、失踪気味。家族が捜索願いを出すか迷ってる」
柏木は画面を見つめた。
紹介者は被害者でもあり、加害者でもある。
その曖昧さが事件を伸ばす。
「……守るべきは、“線”じゃない。時間だ」
柏木は独り言のように言った。紹介者が崩れれば、被害者はもっと深く沈む。
次の一手は、金ではない。人を先に押さえる。